2010年5月9日日曜日

三陰交の不思議

このブログへの書き込みは、今回でで終わりです。次回以降は、玄珠堂のHPにある
鍼灸師のひとりごとをご覧ください。

三陰交というツボがある。足のうちくるぶしの少し上の所にある。

このツボは、婦人三里とも言われていて、名穴のひとつである。

ここに、患者を仰向けに寝かせておいて、ほんの1ミリくらいの鍼を打つ。

これだけで交感神経の緊張が緩和されるのだ。実に不思議な効果である。

この鍼をしたあと、「目をつぶって、10分くらい、ぼうっとしていてください」と言っておくと、ほとんどの人は眠ってしまう。

緊張感が身体から抜けて、実によい気持ちになるのだ。

この効果は、私自身も体験しているのでよく知っている。

生理痛や生理不順にも効くが、妊娠初期にここに深い鍼をすると流産する怖れがあると言われている。

それで、生理が遅れていると言われた場合には、妊娠の可能性がないかどうかを必ず確認する必要がある。

治療が早く終わったときには、この処置をして、眠ってもらう。

実によいサービスになる。

2010年4月30日金曜日

トリガーポイント針治療

 最近、トリガーポイントブロック注射が注目されている。針治療の世界でも、トリガーポイント針治療が注目されている。これは、いずれ、治療法の標準となるだろう。

 若い治療家には、経絡治療は難しすぎるし、習得に時間がかかりすぎる。またこの治療法は、効果の現れ方が、まばらである。良く効くこともあれば、効かないこともある。それは技術の問題かもしれないが、誰もがうまくなれる治療法ではない。

 その点、トリガーポイント針治療は、習得が容易で、誰でも一定の効果を現せるというメリットがある。ただし、正確な触診技術がないと、よい効果は出ないだろう。

 低コストで、効果的なこの治療法は、今後、爆発的に普及する可能性を秘めている。ことに、腰痛などの痛みに関しては、絶大な効果を現す。そして、外科手術のようなリスクを伴わず、身体のあらゆる部位に適用できるというメリットがある。

2010年4月27日火曜日

日本人は死んだ・・・

 日本人は死んだと思う。

 明治維新で死に、日清戦争で死に、日ロ戦争で死に、満州事変で死に、太平洋戦争で死に、B29の絨毯爆撃で死に、2発の原爆で死んだ・・・

軍需工場の社長だった人が、

 働きよった者は、みな、警官やら公務員やら、兵役逃れが目的の奴らばかりやった・・・

と言っていた。この社長も、ずいぶん前に亡くなった。

 太宰治が檀一雄に、「君は生き残るものの味方なのか?」と言ったことがある。

ある大学教授が、

 学者というのは、死んだ人の遺したものを飯のタネにしているようなものでしてね・・・

と言ったことを憶えている。こういう正直な人は、良い仕事をしている。偉そうに権威ぶっている人に限って、業績を調べると、ろくな研究をしていないことが多い。そういう人が好きなのは、学問ではなく、権威なのだ。

 日本人は死んだと思う。

私も20年すれば78歳になる。25年生きれば83歳。おおよそそれくらいでこの世とお別れするだろうと思う。

 それは、私にとって、密やかな楽しみである。

それまでの人生は、生まれた以上のお務めである。尊敬してやまないS先生の最後のお手紙を胸に抱いて死んでいきたいと思っている。

2010年4月24日土曜日

むち打ち症は針で治る

 単刀直入にひとこと。むち打ち症で治療に来た人は数知れない。中には、むち打ち症という名前が付く以前に痛めた人もいた。そういう人も含めて、私が治せなかったむち打ち症は、未だに一例もない。

 しかし、現実問題としては、数年とか、10年とか、あるいは、それ以上、不快症状に悩まされていると言う人が全国に多数いる。数百万人には達するだろう。

 これも、レントゲン診断の盲点がもたらすものである。これによる経済損失は、被害者・その家族・その人の職場・加害者・保険会社などを合わせると、とんでもない金額になる。

 医療費の増大を問題にする前に、それを解決する治療技術を作ることである。

2010年4月23日金曜日

歯茎が腫れていたむ人

異なる症状、同じ原因で書いたことと同じく、症状は違うが原因はいっしょという例である。こういう症候は、挙げだしたらきりがないほど多い。

 今日来た人は、以前、歯茎が腫れて痛むと言っていた。歯医者には行ったが、痛み止めをくれただけだったという。葉に異常がないのだから、歯医者さんも、ほかに打つ手がない。

 この人には、首と肩の凝りを取る治療をしておいた。

それから、3週間くらいして、腰痛と肩こりで治療に来たのだが、歯茎の痛みと腫れは、その日のうちに、あれよあれよという間に消えていったという。

 まぶたの腫れであれ、歯茎の腫れと痛みであれ、あるいは、首から上の毛細血管の拡張とそれに起因する頭痛にせよ、原因は同じであるから、治療法も同じである。それで効果は十分に現れる。

 もし、治療後にいまひとつ後押しがほしいと思ったときは、近くのドラッグストアにいって、葛根湯と軽い痛み止めともらうように伝えておく。鍼灸師は薬に関しては何も言えないが、薬屋に行ってもらえば問題ない。

 それも、一番安いものでいいと念を押しておく。ブランドにカネを払う必要はない。血流を促進し、炎症を抑える。消炎剤は、1回で十分に効く。葛根湯は、2日くらい飲んだらいい。

 こういう症状で、針治療+葛根湯+消炎剤で、治らなかったという人に出会ったことはない。もし、居たら、すぐに病院で検査してもらうようにアドバイスするだろう。

 そのときは、パラメディカルの領域を越えた本物の病気である怖れがあるからだ。

 以前、全身性エリテマトーデスと診断された人が来た。針で何とかならないかと言う。「それは無理です」と答えた。統合失調症だと診断された家族の治療が出来ないかと言われたこともある。その人には、ある精神科医を紹介した。

 パラメディカルの仕事は、本物の病気と病気ではない病気を振り分け、後者が病気になる前に治してしまうことにある。

 それにしても、ひとつの原因がもたらす多様な症状に、なんと多くの病名がつき、なんと多くの専門科の医師が居ることだろう。

 そういうものは、末梢循環不全症候群として一括して治療すればよいのである。針は、極めて有益な治療法である。この治療を再評価すべきである。

 そうしないと、医療まで、中国に後れを取ることになる。

2010年4月22日木曜日

肘の手術から20年・・・

 20年前に肘を手術したという人がやってきた。原因は、野球のやり過ぎだったそうだ。その後、右手が使いづらくなったので、左手を使うことが多くなったという。しかし、これは、この人の身体にかなり大きな負担となった。

 20年の間に、左上半身がひどく凝り固まってしまったのである。そのため、脊柱が右に押されて少し湾曲していた。湾曲は、軽度のものなら針できれいに治るが、軽度のものならば、湾曲の治療そのものは目的としない。脊柱両側の凝りを取ったことの結果として、湾曲が治るのである。

 その右肘の治療は20分で終わった。手の曲げ伸ばし、指の動きともに、大幅に改善した。左半身の凝りは、この右手の不自由さに原因があったのだ。

 左半身の凝りは、40分でほぼ取れた。完全に取れるわけはないのだが、大幅に身体が楽になったのである。これに加えて、原因となっている右手の治療をしたのである。この治療を、疲労を感じるたびにやっていると、身体は、だんだん、もとに戻っていく。治療をするとしないとでは、老後の生活に与える影響が、断然違うと思う。

 それにしても、いつも思うのだが、20年という歳月は長すぎる。その間、治療できる人に出会わなかったのである。私が子供の頃は、いまなら名人と言われるような人が、あちこちに、普通にいた。子供の頃、膝を治してくれたK先生は、非常に腕の立つ人だったが、他にも上手な人はいたと思う。

 そういう人が、技術を残すことなく世を去ってしまったのだ。徒弟制度が社会から無くなってしまったからだろうと思う。

 職人の世界では、丁稚奉公の修業時代が必要である。最初から給料を出せと言われては、雇うに雇えない。いずれは、やめて独立開業するのだ。それでは、金を払って商売敵を作ることにしかならない。そんなバカなことをする人はいない。

 20代の頃患った、私のひどい関節炎を治してくれた人は、名もない貧しい鍼師だった。しかし、どこに行っても治らなかった関節炎を、たった七回の治療で治してくれたのだ。私の治療の基本は、この先生の技術である。こうやって治すのか・・・・と感激したのだ。そういうものは、頭に染みついてしまう。

 20年間、肘が悪かった人に行った治療は、この先生の治療法の応用である。このひとは、凝りを取ることに徹していた。だから、私も凝りを取ることに徹している。

 それが、20年、誰も治せなかった肘のこわばりや、身体のゆがみを治すことになるのである。

2010年4月20日火曜日

ツボの不思議(その2)

 ツボの不思議について、いくつか書いておこうと思う。とくに、遠隔部分に反射的に影響を与える作用についてである。

 バリュームを飲んで透視をしながら、足の三里に針をすると、胃がギュッと動くことは実験で確かめられている。胃酸が多く出ることも実験で確かめられている。したがって、胃酸過多の人に、足の三里のツボを使うのは良くないと言われている。

 高血圧の人の百会(ひゃくえ。頭の頂点にあるツボ)に灸を据えると眼底出血を起こすことがある。これは、いまでは、あまり知られていない。

 妊娠初期の女性の三陰交(さんいんこう。婦人三里とも言われる名穴)に針をすると流産する恐れがある。これは、鍼灸師ならたぶん知っているはずである。この作用を利用して、堕胎をなりわいとしていたアングラ鍼灸師が昔は居たらしいが、いまは、居ない。

 太陽という目のツボ(こめかみの近く)に針をすると、結膜の血管が切れることがある。

 足三里のツボで、胃の働きを良くすることは、八割以上の確率で出来るが、マイナスの効果に出会うことは、10年に一度くらいである。

 ただし、マイナスの効果がほぼ確実に起きるというツボもある。こういうツボは、禁止穴(きんしけつ)といわれていて、使ってはならないとされている。

 ここで書いたことは、ツボの効果のごくごく一部でしかない。人体は、恐ろしく奥深いのである。

 西洋医学では、こういう現象は人体には起きないとされている。もっとも、本家の欧米では、積極的に研究している。彼らは、みずからの限界に気づいているからである。漢方の本家である中国でも、当然ながら積極的に研究している。日本はどうなのだろう?

 医療に関して、世界から立ち後れはしないだろうか??