2010年4月30日金曜日

トリガーポイント針治療

 最近、トリガーポイントブロック注射が注目されている。針治療の世界でも、トリガーポイント針治療が注目されている。これは、いずれ、治療法の標準となるだろう。

 若い治療家には、経絡治療は難しすぎるし、習得に時間がかかりすぎる。またこの治療法は、効果の現れ方が、まばらである。良く効くこともあれば、効かないこともある。それは技術の問題かもしれないが、誰もがうまくなれる治療法ではない。

 その点、トリガーポイント針治療は、習得が容易で、誰でも一定の効果を現せるというメリットがある。ただし、正確な触診技術がないと、よい効果は出ないだろう。

 低コストで、効果的なこの治療法は、今後、爆発的に普及する可能性を秘めている。ことに、腰痛などの痛みに関しては、絶大な効果を現す。そして、外科手術のようなリスクを伴わず、身体のあらゆる部位に適用できるというメリットがある。

2010年4月27日火曜日

日本人は死んだ・・・

 日本人は死んだと思う。

 明治維新で死に、日清戦争で死に、日ロ戦争で死に、満州事変で死に、太平洋戦争で死に、B29の絨毯爆撃で死に、2発の原爆で死んだ・・・

軍需工場の社長だった人が、

 働きよった者は、みな、警官やら公務員やら、兵役逃れが目的の奴らばかりやった・・・

と言っていた。この社長も、ずいぶん前に亡くなった。

 太宰治が檀一雄に、「君は生き残るものの味方なのか?」と言ったことがある。

ある大学教授が、

 学者というのは、死んだ人の遺したものを飯のタネにしているようなものでしてね・・・

と言ったことを憶えている。こういう正直な人は、良い仕事をしている。偉そうに権威ぶっている人に限って、業績を調べると、ろくな研究をしていないことが多い。そういう人が好きなのは、学問ではなく、権威なのだ。

 日本人は死んだと思う。

私も20年すれば78歳になる。25年生きれば83歳。おおよそそれくらいでこの世とお別れするだろうと思う。

 それは、私にとって、密やかな楽しみである。

それまでの人生は、生まれた以上のお務めである。尊敬してやまないS先生の最後のお手紙を胸に抱いて死んでいきたいと思っている。

2010年4月24日土曜日

むち打ち症は針で治る

 単刀直入にひとこと。むち打ち症で治療に来た人は数知れない。中には、むち打ち症という名前が付く以前に痛めた人もいた。そういう人も含めて、私が治せなかったむち打ち症は、未だに一例もない。

 しかし、現実問題としては、数年とか、10年とか、あるいは、それ以上、不快症状に悩まされていると言う人が全国に多数いる。数百万人には達するだろう。

 これも、レントゲン診断の盲点がもたらすものである。これによる経済損失は、被害者・その家族・その人の職場・加害者・保険会社などを合わせると、とんでもない金額になる。

 医療費の増大を問題にする前に、それを解決する治療技術を作ることである。

2010年4月23日金曜日

歯茎が腫れていたむ人

異なる症状、同じ原因で書いたことと同じく、症状は違うが原因はいっしょという例である。こういう症候は、挙げだしたらきりがないほど多い。

 今日来た人は、以前、歯茎が腫れて痛むと言っていた。歯医者には行ったが、痛み止めをくれただけだったという。葉に異常がないのだから、歯医者さんも、ほかに打つ手がない。

 この人には、首と肩の凝りを取る治療をしておいた。

それから、3週間くらいして、腰痛と肩こりで治療に来たのだが、歯茎の痛みと腫れは、その日のうちに、あれよあれよという間に消えていったという。

 まぶたの腫れであれ、歯茎の腫れと痛みであれ、あるいは、首から上の毛細血管の拡張とそれに起因する頭痛にせよ、原因は同じであるから、治療法も同じである。それで効果は十分に現れる。

 もし、治療後にいまひとつ後押しがほしいと思ったときは、近くのドラッグストアにいって、葛根湯と軽い痛み止めともらうように伝えておく。鍼灸師は薬に関しては何も言えないが、薬屋に行ってもらえば問題ない。

 それも、一番安いものでいいと念を押しておく。ブランドにカネを払う必要はない。血流を促進し、炎症を抑える。消炎剤は、1回で十分に効く。葛根湯は、2日くらい飲んだらいい。

 こういう症状で、針治療+葛根湯+消炎剤で、治らなかったという人に出会ったことはない。もし、居たら、すぐに病院で検査してもらうようにアドバイスするだろう。

 そのときは、パラメディカルの領域を越えた本物の病気である怖れがあるからだ。

 以前、全身性エリテマトーデスと診断された人が来た。針で何とかならないかと言う。「それは無理です」と答えた。統合失調症だと診断された家族の治療が出来ないかと言われたこともある。その人には、ある精神科医を紹介した。

 パラメディカルの仕事は、本物の病気と病気ではない病気を振り分け、後者が病気になる前に治してしまうことにある。

 それにしても、ひとつの原因がもたらす多様な症状に、なんと多くの病名がつき、なんと多くの専門科の医師が居ることだろう。

 そういうものは、末梢循環不全症候群として一括して治療すればよいのである。針は、極めて有益な治療法である。この治療を再評価すべきである。

 そうしないと、医療まで、中国に後れを取ることになる。

2010年4月22日木曜日

肘の手術から20年・・・

 20年前に肘を手術したという人がやってきた。原因は、野球のやり過ぎだったそうだ。その後、右手が使いづらくなったので、左手を使うことが多くなったという。しかし、これは、この人の身体にかなり大きな負担となった。

 20年の間に、左上半身がひどく凝り固まってしまったのである。そのため、脊柱が右に押されて少し湾曲していた。湾曲は、軽度のものなら針できれいに治るが、軽度のものならば、湾曲の治療そのものは目的としない。脊柱両側の凝りを取ったことの結果として、湾曲が治るのである。

 その右肘の治療は20分で終わった。手の曲げ伸ばし、指の動きともに、大幅に改善した。左半身の凝りは、この右手の不自由さに原因があったのだ。

 左半身の凝りは、40分でほぼ取れた。完全に取れるわけはないのだが、大幅に身体が楽になったのである。これに加えて、原因となっている右手の治療をしたのである。この治療を、疲労を感じるたびにやっていると、身体は、だんだん、もとに戻っていく。治療をするとしないとでは、老後の生活に与える影響が、断然違うと思う。

 それにしても、いつも思うのだが、20年という歳月は長すぎる。その間、治療できる人に出会わなかったのである。私が子供の頃は、いまなら名人と言われるような人が、あちこちに、普通にいた。子供の頃、膝を治してくれたK先生は、非常に腕の立つ人だったが、他にも上手な人はいたと思う。

 そういう人が、技術を残すことなく世を去ってしまったのだ。徒弟制度が社会から無くなってしまったからだろうと思う。

 職人の世界では、丁稚奉公の修業時代が必要である。最初から給料を出せと言われては、雇うに雇えない。いずれは、やめて独立開業するのだ。それでは、金を払って商売敵を作ることにしかならない。そんなバカなことをする人はいない。

 20代の頃患った、私のひどい関節炎を治してくれた人は、名もない貧しい鍼師だった。しかし、どこに行っても治らなかった関節炎を、たった七回の治療で治してくれたのだ。私の治療の基本は、この先生の技術である。こうやって治すのか・・・・と感激したのだ。そういうものは、頭に染みついてしまう。

 20年間、肘が悪かった人に行った治療は、この先生の治療法の応用である。このひとは、凝りを取ることに徹していた。だから、私も凝りを取ることに徹している。

 それが、20年、誰も治せなかった肘のこわばりや、身体のゆがみを治すことになるのである。

2010年4月20日火曜日

ツボの不思議(その2)

 ツボの不思議について、いくつか書いておこうと思う。とくに、遠隔部分に反射的に影響を与える作用についてである。

 バリュームを飲んで透視をしながら、足の三里に針をすると、胃がギュッと動くことは実験で確かめられている。胃酸が多く出ることも実験で確かめられている。したがって、胃酸過多の人に、足の三里のツボを使うのは良くないと言われている。

 高血圧の人の百会(ひゃくえ。頭の頂点にあるツボ)に灸を据えると眼底出血を起こすことがある。これは、いまでは、あまり知られていない。

 妊娠初期の女性の三陰交(さんいんこう。婦人三里とも言われる名穴)に針をすると流産する恐れがある。これは、鍼灸師ならたぶん知っているはずである。この作用を利用して、堕胎をなりわいとしていたアングラ鍼灸師が昔は居たらしいが、いまは、居ない。

 太陽という目のツボ(こめかみの近く)に針をすると、結膜の血管が切れることがある。

 足三里のツボで、胃の働きを良くすることは、八割以上の確率で出来るが、マイナスの効果に出会うことは、10年に一度くらいである。

 ただし、マイナスの効果がほぼ確実に起きるというツボもある。こういうツボは、禁止穴(きんしけつ)といわれていて、使ってはならないとされている。

 ここで書いたことは、ツボの効果のごくごく一部でしかない。人体は、恐ろしく奥深いのである。

 西洋医学では、こういう現象は人体には起きないとされている。もっとも、本家の欧米では、積極的に研究している。彼らは、みずからの限界に気づいているからである。漢方の本家である中国でも、当然ながら積極的に研究している。日本はどうなのだろう?

 医療に関して、世界から立ち後れはしないだろうか??

2010年4月19日月曜日

消せる耳鳴りと消えない耳鳴り

 耳鳴りの治療に来る人は多いが、どういう音が聞こえているかで、治せるかどうか、だいたいの見当が付く。治せる耳鳴りの代表は、拍動性のものである。これは、心臓の鼓動、つまり脈動を耳の近くの血管を通して聴いているのである。


 どうして、そういうことが起きるかというと、これも異常に硬くなった筋肉の仕業で、耳の近くの動脈周辺の筋肉が硬くなることによって、その動脈の脈動が、振動として鼓膜に伝わってしまうのだ。

 音としては、太鼓のような音とか、ドンドンとドアを叩くような音とか、あるいは、洗濯機が回るような音(これは血流音を聴いている)とかであるが、心臓の鼓動に合わせたリズムで鳴る低音の耳鳴りであるのが特徴である。

 これは、第一、第二頸椎周辺の凝りを取ること、ことに、乳様突起(ツボでいうと完骨)の周辺に出来た頑固な凝りを取ることでほとんど消すことが出来る。

 最近、病院で半年治療をしたが治らなかったという人が治療に来ているが、六回目の治療の時に、ほぼ音は消えていた。ドーン・ドーンという音が、夜になるとどうしようもなく大きくなって眠れないので、眠剤を飲んで寝ているといっていたが、いまでは、ほとんど音は消えている。ただし、定期的な治療は必要だと思う。たぶん、月に二回程度。

 消しづらい耳鳴りは、蝉が鳴くような音、キーンというジェット機のような音である。ことに、中耳炎の後遺症の場合は、難しい。

 この場合でも、症状の改善は望める。それだけでもずいぶん楽になる。ただ、完全に消える例は非常に少ない。

 耳鳴りは、耳鼻科でステロイドの点滴をしても治りはしない。原因が、炎症にあるのではないからである。

2010年4月18日日曜日

肥大した自尊心

 悲しきモラルハザードのなかで、他人の原稿を自分の名前で出版した大学教授のことを書いた。ひとりは、そのとき書いたように、原稿を書き上げた後亡くなった人のものを自分の名前で出版したのだが、もうひとりは、出版社の編集者で、預かっていた大学の先生の原稿を自分の原稿に挟み込んで出版したのである。これは、あとで発覚して(見つからないと思っていたのだろうか?)裁判になり、多額の賠償金を支払うことになった。

 ところが、世の中おもしろいもので、原稿を盗まれた人よりも、盗んだ人の方が、出世したのである。この人はいまやとある有名大学の名誉教授になっている。もうひとりの、他人の原稿を盗んだ人は、

 あの原稿は、私の名前で出版するに値するものだったから、私の名前で出した。

と言っていたらしい。

 この言葉に典型的に表れているが、ここには肥大した自尊心がある。それも中身のない自尊心である。要するに、たんなるエゴである。

 東京の、ある料亭の女将が、若いサラリーマンの予約を「あいにく、今日は満席です」と言ってことわった。するとそのサラリーマンは、

 ボクをどこの会社の社員だと思って居るんですか? ソニーですよ! ソニーですよ!

と言って、断られたことに腹を立てたという。ソニーの社員だからどうだというのだろう? それ以来、このお店では、この人をソニー君と呼ぶようになったという。

 こんなことは、笑い話にしかならない。しかし、こんな笑い話をする人は、後を断たない。モラルハザードをおこしているのは、増長した自尊心かもしれない。

毛根の脂を取るのかいかがなものか?

 テレビの宣伝で、脱毛の原因は毛根に付着した脂であると盛んに言っている。果たしてそうであろうか? 私は、若い女性の髪の生え際が薄くなっているのを見たら、必ず髪を洗いすぎていませんか? と尋ねることにしている。

 そうすると、ほとんどは、「毎日」という答えが返ってくる。中には、「朝夕」と言う人もいる。

髪を洗うと、産毛(うぶげ)が抜ける。これは、髪の赤ちゃんだから、そっと洗わないといけないし、扱い方は、生まれたての赤ちゃんの髪と同じである。生まれたての赤ちゃんの髪を毎日シャンプーで洗うだろうか?

 逆に、世界一髪の長いインディアンとか、インド人とか(本当にどちらが世界一かわからないが)は、髪は滅多に洗えない。インディアンの場合は、1ヶ月に一度、大人数で洗うのだそうだが、インドの人は、紹介した番組のアナウンサーが、

 もう何年も髪を洗っていないので、猛烈なにおいがするそうです。


と言っていた。毛根に付着した脂質によって脱毛するならば、この人達の髪はとっくの昔に抜け落ちていたはずである。

 ずいぶん前、「朝シャン」というのがはやった時期がある。これもテレビが広めたものである。この「朝シャン」をやっている人は、ほとんど例外なく、毛が薄い。当時、皮膚科に、シャンプーのしすぎが原因で、ひどい脱毛を起こした人がずいぶん診察に来たらしい。こういうひどい状態になった人の多くは、シャンプーの香りを残したいために、すすぎを十分にしなかった人である。

 シャンプーには、防腐剤が入っている。ボディーソープにも入っている。シャンプーもボディーソープも、それそのものが、化学物質である。頭皮によいはずがない。ましてや、産毛に良いはずがない。

 私は、必要以上に髪を洗わない。だいたい3日か4日に一度しか洗わない。

その習慣のおかげだと思うのだが、五十八歳になったいまも白髪はほとんど無く、髪の毛の量は若いときとあまり変わらない。髪型のせいで、生え際が少し後退したくらいである。

 不潔はよろしくない。これは当然である。しかし、過度の清潔志向もよろしくない。「過ぎたるは及ばざるがごとし」である。

 現代の日本人は、病院依存と清潔中毒という、ちょっと病的な状態にあると思う。戦後の日本の社会そのものがそういう方向性をもって発達してきたのであるが、もう、そろそろ方向を修正したほうが良いように思う。

 ついでに書いておくけど、歯磨きは、大豆粒ひとつくらいの大きさを歯ブラシに付ければよい。テレビの宣伝のように、ブラシの端から端まで付ける必要はない.。

 宣伝は教育ではない。売り上げに貢献すればよいのである。

だから、真に受けてはいけないのだ。

2010年4月17日土曜日

ツボの不思議

 以前、子宮筋腫と子宮癌の間の、いわゆるグレーゾーンと言われた人が、抗がん剤投与後の吐き気を止めたいと言って治療に来た。この人の筋腫は、私が治療中に見つけた。すぐに、アメリカで末期癌の患者の放射線療法をやっていた医師が居る病院を紹介した。最初の一言は、

 あんたも物持ちいい人だねぇ・・・・

だったという。医師も呆れたのであろう。それからすぐに手術したのだが、生研の結果がグレーだったのだ。念のため、抗がん剤を3本打つことになったという。

 1本目から、かなりひどい吐き気がしたらしいが、事業を立ち上げたばかりだったので、休めないという。髪の毛も抜けていたが、毛糸の帽子をかぶっていた。

 吐き気を止めてほしい。

という。それで、12胸椎の両側にあるツボに5センチほど刺した。案の定、ゴリゴリ状態だった。この凝りをほぐした後、足の三里(さんり)というツボに針をした。このツボを使うコツは、縦にビッと刺激を走らせることである。この刺激は強烈に効く。

 感染性胃腸炎で元気が無く、ついでに口唇ヘルペスまで出来ていた人の食欲不振も、その日のうちに回復し、数日後に治療に来たときは、口唇ヘルペスも治っていた。これは、胃の経絡に深く関係している。口角には、地倉(ちそう)というツボがあって、このあたりにできたヘルペスは、足三里の鍼が良く効くのである。ただし、縦に走る刺激がないとダメ。

 ツボの効果というのは実に不思議である。皮膚のかぶれを治すのに、太淵(たいえん)という手首近くのツボに灸を据えることがある。皮膚の病には、この灸が良く効く。皮膚は、肺の気が支配するからである。

 抗がん剤の吐き気は、この人に関しては、この2カ所の針で消えたのである。抗がん剤の治療が終わって吐き気の心配が無くなるまで、毎日治療に来た。

 そうして、三度の食事をしながら、仕事をやり続けたのである。

2010年4月13日火曜日

悲しきモラルハザード

 まずは、不勉強な大学の先生たちのことである。文系にこういう人がけっこう居る。

 ずいぶん前、大分合同新聞社が「三浦梅園の総合的研究」という企画を100回連載で、行ったことがある。私には、『多賀墨卿君にこたふる書』の解説が回ってきた。この記事の中で、

『多賀墨卿君にこたふる書』(以下『多賀書』)

と、はじめの部分に書いた。字数が制限されているので、長い名前を何度も使うことが出来なかったからである。

それからしばらくして、2、3人の先生方の論文に、『多賀書』と書かれているものを見た。これには、笑った。いや、呆れた。三浦梅園が多賀墨卿に宛てた書簡は、三通ある。

 1.多賀墨卿君にこたふる書
 2.再答多賀墨卿
 3.三答多賀墨卿

何のことわりも無しに、『多賀書』と書いてはいけない。そんな名前の執筆物は、無いのである。それを平気でやる教授達もいることは居る。こんなのは、まだマシな方で、他人が書いた本を自分の名前で出した人を三人知っている。ひとりは、原稿を書き上げた後亡くなった人のその原稿を、自分の名前で出版したのである。

 学生は、ひよこみたいなものだから、分かりはしない。

 学校の先生というのは、知識の落差で飯を食っている。三〇歳くらいまで勉強すれば、大学でも一生飯を食っていける。それにあぐらをかいている人は、勉強しない。

 以前、文献学の専門家と話をしていたとき、著書も論文も何もない大学教授が、私立大学にはたくさん居るよ、と言われて驚いた。大学教授が粗製濫造された時代があったのだ。この人達は、もともとは高校の教諭だった人たちである。

 遅刻してきた上に、窓から入ってくる学生が居ると言うことにも驚いた。授業中、話を聞かずにずっと化粧をしている女子学生が、自分が担当しているクラスに数人いる、という話を聞いて驚いた。学年末になると、

 センセー、可をくれるんなら一晩おつきあいしてあげる。

という女子学生が、毎年2、3人いるという話もしてくれた。笑える話ではない。俺も男だからねぇ、困るよ、と真顔で言っていたが、いつも同じ返事をするという。

 よしよし、先生のお嫁さんになってくれたら可をあげる。入籍してからね。

 私のお客さんに、心臓に小さな穴が空いている人がいた。心臓にまでカテーテルを通して、電気でそれをふさいだのだそうだが、運悪く、また、穴が空いてしまった。

 その人が、再手術は絶対にしないという。その理由は、研修に来ていた学生のニヤけたおしゃべりが許せないのだという。

 ずいぶん、苦しい手術だったらしい。そのそばでぺペチャクチャおしゃべりをされたのが許せないという。

 別のお客さんは、父親があと数日の命だと言われたとき、当直の医師と看護師がぺちゃくちゃ話をしているのが許せなかったという。

 少し静かにしていてくれませんか・・・・

と言ったら、

 大丈夫ですよ。僕たちは馴れていますから。

と若手の医師が答えたという。おいおい、葬儀社の人は、葬式には馴れているはずだが、葬儀の間は静かにしているだろう。おしゃべりはしないだろう。

 要するに、そういう学生は、そういう医者になる。そういう医者を作ったのは指導者の責任である。

分野を問わず、社会のモラルが、崩壊しているのである。

 私の父親は、昭和55年に脳梗塞で倒れて、別府市の救急病院に運ばれたのだが、驚いたことに、当直の老医師は、寝たまま起きてこなかったのである。父が仰向けのまま嘔吐して、それを吸い込んでしまったときに、

抗生物質の注射を打ちに、一度だけ起きてきた。それっきりまた眠ってしまって、看護師が呼びに行っても起きてこなかった。責任放棄も、ここまでくると犯罪である。

 それから40年たつが、まれに、お客さんが似たような話をすることがある。

以前、経済産業省の査察官の治療をしたことがある。その人は、

 世の中で悪徳医ほどどうしようもないものない。

と言っていた。そういえば、賭けゴルフで、金の代わりにバイアグラを賭けた医師がいる。

 こういうモラルの崩壊について書き出すときりがないのが、いまの日本の現状である。

2010年4月12日月曜日

芸術祭参加作品のような見事な手術

芸術祭参加作品のような見事な手術 だと、私のような素人がどうして分かるのか、不審に思う人がいるかもしれないので、書いておきたいと思う。判断の基準は、以下の三点である。


 1. 症状をきれいに消している。
 2. 後遺症を残していない。
 3. 縫合の後が、女性の顔の傷を縫ったあとのように美しい。

外科手術に、これ以上何も望めないと思う。

 ただし、ギネスブック級というのもある。骨盤骨折の手術をした後、どうも具合が悪いというので治療に来た人がいた。その人は、要するに術後の筋力の回復過程で凝りを生じたのである。

 驚いたのは、縫った後がまったくなかったことである。要するに、外科医が骨接ぎの仕事をしたのである。ハンモックに半年間寝ていたという。だから手術ではないのかもしれない。

 これには、ほとほと感心した。こんな医師がいるんだ、ということに感動もした.

 この先生は、医学史、ことに解剖学の歴史に関する大変な研究をしていて、立派な著書もある。月並みの大学教授では、学識が及ばないだろうと思う。大学教授と言ってもエスカレーター式に出世しただけの人は、不勉強がすぐにバレる。

 実際、中津である学会が開催されたとき、出席していた大学教授よりもこの先生の方が医学史に詳しかった。これには、笑ってしまった。

 この先生は、大分の中津(なかつ)に住んでいる。中津は伝統的に外科のレベルが高い。蘭学が盛んな土地であったことが影響しているのだ。和蘭辞書の「中津辞書」は、有名である。これは、明治維新の前に、中津藩主の奥平昌高(おくだいら まさたか)がみずから作ったのである。

 だから、伝統がある。伝統は人に力を与える。こういう偉い藩主は、世紀を超えて土地に影響を与える。

 私が住んでいる大分市(府内藩)は、どうだったか? 

う~ん。・・・・ 府内の伝統???  日本で最初の西洋医学の発祥の地であるにしては、なんだか寂しい。医師アルメイダの名を冠した「アルメイダ病院」があるが・・・・

 府内藩医だった多賀墨卿(たが ぼっけい)は、三浦梅園の『多賀墨卿君にこたふる書』で、名前だけは知られている。

 中津のある医師が、大分市はチャラチャラしていてイヤだ、とメールに書いていたことがある。

 そういわれると、反論が出来なかった。前知事(平松知事)の時代のことである。たしかに、チャラチャラしていた。そのときの負債に、いまの大分県は苦しんでいる。

 土地柄、あるいは、その地域の伝統は、世紀単位で影響を与え続ける。

 大分には長く住んでいるが、スケールの大きな人物に会ったことは、まだ一度もない。B29が、市内一面を焼け野原にしたことが影響しているのであろうか? 

 私の祖父は、この爆撃で死んでしまった。写真も何も残っていない。

2010年4月10日土曜日

ガングリオンの治し方その他。

 長年治療している人が、手首の甲の所に何かグリグリするものができたと言う。ちょっと見てみると、ガングリオンができていた。ガングリオンというのは、関節の近くにある膜や粘液嚢胞にゼリー状の液体が貯まるもので、良性腫瘍の一種である。
 
 良性なので、放置しておいても良いが、大きくなって神経を圧迫すると痛むし、関節の動きを邪魔することもある。

 これは、小さいうちなら針で簡単に治せる。治し方は以下の通り。

1.ガングリオンが出来た関節よりひとつ上の関節の周囲の凝りを取る。
2.ガングリオンに四方から針を打つ。ガングリオンを●とすれば、
  ↓
 →●←
  ↑
  のように打つ。要するに、ボールに穴を空けるのである。中心に届かせる必要はない。
3.頂点にも針を刺す。穴は全部で5個。ガングリオンが大きければ、さらにたくさん刺しても構わない。
4.お風呂に入るたびに、コロコロと転がすようにマッサージしてもらう。毎日、1分程度でよい。

 これだけでよい。入浴時のマッサージだけで消えそうに無ければ、また治療に来てもらう。

 この方法で、消していると、そこにはガングリオンが出来なくなる。それが注射で吸い出すやり方と違うところである。

 膝の関節に貯まった水を引かせるのも同じような方法でやる。何度かやっているうちに、水そのものが貯まらなくなる。

 スポーツで痛めた膝から、すぐに水を抜かねばならないなら、注射で吸い出せばよい。しかし、生活疲労や仕事の疲労で貯まった水に、そんな急激な方法をとる必要はない。

 ガングリオンも膝の水も、治し方は同じである。

 私の治療法は、徹底して物理的である。それを古典にしたがっていないという理由で良く思わない人たちもいるが、要は治ればよいのである。
 
 それにしても外科の治療は荒いと思うことがある。膝蓋跳動テストもせずに水を抜かれて膝が曲がらなくなって治療に来た人や、手術後完全に片足が麻痺した人、ヘルニアの手術後、思うように歩けなくなった人を見ると、そう思う。

 もっとも、芸術祭参加作品のような見事な手術に出会うことも稀ではない。私の娘の鼓膜再建をやってくれた医師は、名人であった。あまりに名人であったので、風邪が長引く原因になっていた私の扁桃もその先生に取ってもらった。

 埋没型扁桃だったので、取りにくかったと思うが、3週間後には手術した後がまったく分からなくなってしまった。おかげで今年は風邪をひかなかった。

 要は、腕次第という、当たり前の話しである。

あらら、ガングリオンから、話が飛んでしまった・・・・・

2010年4月7日水曜日

異なる症状、実は同じ原因。

2月以来、花粉症の人がよく来るようになった。むろん、花粉症の治療に来るのはなくて、肩こりとか腰痛とか、そういうものの治療に来るのだが、しきりに鼻をすするので、「鼻炎ですか?」と尋ねると、アレルギー性鼻炎だとか、花粉症だとか、そういう答えが返ってくる。

 少し前、まぶたの腫れで治療に来た人のことを書いたが、理屈はこれと同じである。まぶたの場合は眼科を受診するだろうし、鼻炎の人は耳鼻科を受診するだろう。もし、同じ人がこのふたつの症状を同時に持って、それぞれの専門科目を受診した場合、その人は、このふたつの症状をそれぞれ別の病気だと思うだろう。

 しかし、違うのである。

このふたつの症状は、つまるところ、粘膜の血流不全に起因するという点では共通している。その血流不全を起こすのは上部頸椎周辺に出来た強度の筋肉のこわばり、つまり、凝りである。だから、針を使ってこの凝りをほぐすと、鼻づまりも、まぶたの腫れも、驚くほどに消えていくのだ。

 症状が出る部位は異なっているが、原因は同じである。

 しかし、こういう見方は、現代医学ではしない。物理的な発想から人体を考えるという視点が欠落しているからである。

 もし仮に、まぶたの腫れと腰痛とアレルギー性鼻炎と膝の痛みで治療に来た人がいたとしても、私は、一度の治療でそれらすべてに対処できる。

2010年4月2日金曜日

まぶたの腫れと目やにの治療

 まぶたの腫れが引かず、目やにが止まらないという人が来た。60代の男性である。たしかに左まぶたが腫れていた。眼科で点眼薬をもらい、1週間ほど服薬もしたが治らず、次は県立病院の内科で検査したが原因が分からないという。

 次は、脳神経外科でCTスキャン。脳に異常はない。

異常がないのは幸いだが、目が治らないのだという。触診してみると、悪い方の左の首と肩の凝り肩がひどい。

 これは、たぶん、凝りから来るものでしょう。

と言って、1時間ほど治療をした。治療途中、よく眠っていた。凝りがかなりとれたところで治療は終わり。

 はい。終わりました。目はどうですか?

 あれ、開くなあ・・・・・。まぶたが軽いな・・・・

この症状は、凝りが血管を圧迫して、まぶたの細い血管が腫脹していただけのものだった。こういう状態になると、感染も起こしやすくなるので、目やにも出る。

ただそれだけのことである。こういう場合は、凝りを取る治療を先にした方が時間的にも経済的にも効率がよい。

本当に、脳や心臓や他の臓器に病変があって、それが原因ならば、凝りを取ったところで症状は消えない。

針治療は、検査にもなるのだが、どうしても、後回しにされてしまう。

次は、うちに先に来た方がいいですよ、と、言っておいた。

 次からそうしよう、という返事であった。