悲しきモラルハザードのなかで、他人の原稿を自分の名前で出版した大学教授のことを書いた。ひとりは、そのとき書いたように、原稿を書き上げた後亡くなった人のものを自分の名前で出版したのだが、もうひとりは、出版社の編集者で、預かっていた大学の先生の原稿を自分の原稿に挟み込んで出版したのである。これは、あとで発覚して(見つからないと思っていたのだろうか?)裁判になり、多額の賠償金を支払うことになった。
ところが、世の中おもしろいもので、原稿を盗まれた人よりも、盗んだ人の方が、出世したのである。この人はいまやとある有名大学の名誉教授になっている。もうひとりの、他人の原稿を盗んだ人は、
あの原稿は、私の名前で出版するに値するものだったから、私の名前で出した。
と言っていたらしい。
この言葉に典型的に表れているが、ここには肥大した自尊心がある。それも中身のない自尊心である。要するに、たんなるエゴである。
東京の、ある料亭の女将が、若いサラリーマンの予約を「あいにく、今日は満席です」と言ってことわった。するとそのサラリーマンは、
ボクをどこの会社の社員だと思って居るんですか? ソニーですよ! ソニーですよ!
と言って、断られたことに腹を立てたという。ソニーの社員だからどうだというのだろう? それ以来、このお店では、この人をソニー君と呼ぶようになったという。
こんなことは、笑い話にしかならない。しかし、こんな笑い話をする人は、後を断たない。モラルハザードをおこしているのは、増長した自尊心かもしれない。
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