交通事故で胸骨(胸の中心にある平べったい骨)が、縦に割れた人がいる。むろん骨折したのだが、これは身体が前に飛び出すのをシートベルトで一気に止めたことが原因である。むろん、そうしないと、ハンドルに顔をぶつけてとんでもない大怪我をしてしまう。一瞬、シートベルトで止められ、次の瞬間にはエアバッグで顔面強打を防ぐことができた。だから、車が全損するほどの事故の大きさからすれば、実に軽微な怪我ですんだのである。
1300ccの小型車だったそうだが、その程度の大きさの車でも、市街地走行には、十分な安全性をもっているものだと感心した。
その人は、骨折が治って退院した後、あちこちが痛くて治療に来たのだが、勤務先がなんと病院だった。だから、リハビリは、自分が勤務している病院で行っていたのである。
しかし、電気治療などで治るような状態ではなかった。事故の衝撃でダメージを受けた筋肉は、硬く固まって、針先がガチガチと石にぶつかるような状態になる。正常な状態の筋肉がソーセージのようなものだとしたら、硬結した筋肉は、硬いサラミソーセージくらいにはなっている。いや、時には、家の柱よりも硬くなっている。いや、本当に、石のようになっている。私はこれを
凍結筋(フローズン・マッスル)
と呼んでおり、それに起因する種々の症状を、
凍結筋症候群(フローズン・マッスル・シンドローム)
と呼んでいる。それは、不眠・頭痛・吐き気・頑固な咳・背中の張り・腰痛・ぎっくり腰・膝の痛み・各種の消化器疾患など、実に多様な疾患を含む。その特徴は、現代医学の検査では異常が見つからないところにある。
筋肉がそこまで硬くなると、針を曲げずに通すのが大変なのだ。そういう運針(針運び)の技術は、鍼師にとって必要不可欠なものなのだが、最近の若い鍼師は、その技術を持っていない。経絡治療家にもその技術はない。
そこまで針を送らないのだから、そういう凝りがあるということを知りもしない。ついでにレントゲンにも映らないので、医師にもそのような筋肉の異常は、分からない。診断がレントゲンから始まるというのは、現代の整形外科医療の大きな問題点である。
忘れられた筋肉、とでも言おうか、とにかく、筋肉を見ないのが現代の医療の負の特徴である。
この人は、10回くらい治療に来た。それで、ともかく、痛みのない生活を送れるようになった。仕事も支障なく続けている。
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